にゃんこ心理士の社会の真理

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セクハラで請求できる金額の相場~増額交渉と請求手順

【示談金とは】
 示談金とは、セクハラや交通事故などの不法行為によるトラブルを話し合い(示談)で解決する際に、加害者から被害者に支払われるお金のことです。
 訴訟をするのは双方にとって負担が大きいですし、場合によっては加害者の悪評が広まるリスクもあります。そこで、訴訟を起こさず示談で解決することがあります。

 示談金は、「今回は、この金額で許してください」というニュアンスで、双方の合意で自由に決められる性質のものです。慰謝料や損害賠償金のように、被害者が受けた損失を細かく計算して補償するものとは異なります。
 ただし、双方の合意で自由に決められると言っても、おおよその相場はあります。そこで今回は、セクハラで支払われる示談金の相場について解説します。

【慰謝料と損害賠償金、示談金の違い】
 慰謝料と損害賠償金、示談金の意味は違います。
・慰謝料「不法行為によって受けた精神的苦痛に対する損害賠償」
・損害賠償金「遺失利益の補償、慰謝料を含めた金額」
・示談金は「示談交渉の中で当事者が合意した、慰謝料+損害賠償等全てを包括する金額」
 となっています。

 訴訟で慰謝料・損害賠償金を請求すると、双方に大きな負担がかかります。訴訟にはお金も時間もかかり、精神的ストレスも甚大です。また、加害者の社会的地位が高い場合には、「訴訟で事を大きくすると地位・名声が傷つくので、高い示談金を支払ってでも穏便に済ませたい」と考え、相手から示談を要求してくる場合もあります。

 なお、逸失利益とは本来得られるべきであるにもかかわらず、不法行為 (セクハラ)が生じたことによって得られなくなった利益を指します。会社を休業することになれば、休業損害がこれにあたります。

【セクハラによる示談金の相場】
 示談金は30万円から100万円程度のケースが多いようです。示談金は基本的に双方の合意で自由に金額を設定できます。しかしセクハラの程度や頻度によりだいたいの相場があり、軽度のものでは10万円〜30万円程度となることが多いです。
 被害の内容が極めて悪質で、強制わいせつ・強制性交と表現した方が適切なケースの場合は示談金の金額が100万円以上になることもあります。

 セクハラで示談金が支払われた裁判判例から、詳しく見ていきましょう。≪示談金50万円〜100万円程度のケース≫
『内容』 支払金額: 55万円
 被告の暴言、脅迫、セクシュアルハラスメント行為及び奇行により、人格権及び良好な職場環境で働く利益を侵害され、精神的損害を被ったとして、不法行為に基づき慰謝料50万円、弁護士費用5万円の支払いが命じられた。事件番号 (平22(ワ)45133号)

『内容』 支払金額 :150万円
 不倫を迫るも女性部下と対立したことを理由に、その女性の異性関係をめぐる悪評を流すなどの行為をした。上司の不法行為責任が認められ、適切な対処を怠った会社に使用者責任が問われたもの。(事件番号 平元(ワ)1872号)

『内容』 支払金額:165万円
 カラオケ店の個室という密室で執拗にわいせつ行為に及ぶ、業務を装って電話をかけるように要求した行為や、原告を性的対象とみているとしか思えないような化粧品等のプレゼントを送った行為で、慰謝料150万円、弁護士費用15万円が支払われたもの。(事件番号 平22(ワ)45253号)

『内容』 支払金額:132万円
 外注先のカメラマン(被告)から数回にわたり、無理やりキスをされたり、胸を触られるなどのわいせつ行為を受け、執拗な性交渉を迫らた。これを断ると罵倒などする不法行為に基づき、慰謝料と弁護士費用を請求したもの。(事件番号 平29(ワ)17768号支払い金額)

≪示談金200万円以上のケース≫
『内容』 支払金額:349万円
 会社管理職の者が女性部下に手紙を送る、入院時の見舞いで足のマッサージをしたり、誕生日にプレゼントを贈る、将来結婚したいなどと告白し上に就業中に女性部下の臀部、腹部、胸部、上腕部、わきの下の周辺部分、大腿部、股間等を被服の上からビデオカメラで盗撮したもの。(事件番号 平14(ワ)13135号)

 加害者の社会的地位が高い場合には、示談金の金額が高くなる傾向にあります。また、セクハラ被害により「退職に追い込まれた」「発症した」などの逸失利益があると高額になるケースがあります。

逸失利益がある場合には示談金の額も高額になる傾向】
 慰謝料はあくまで精神的苦痛に対する補償ですが、逸失利益は『セクハラがなく、会社に留まっていれば支払われていたであろう利益を失ったこと』に対する請求ですので、全体の金額(慰謝料+損害賠償)は増額することが考えられます。
 また、セクハラ被害によって「うつ病」「不安障害」「PTSD」などのような精神障害を発症し通院しいる場合は、慰謝料の金額はさらに高額になっていきます。

逸失利益の例≫
・退職による遺失利益:基本的に「次の就職先が決まるまでの期間分の給料」として計算されます。
・精神科や内科、婦人科等に通院した場合は、その治療費も上乗せできる可能性があります。

【加害者の立場】
 加害者が地位・権力を有している場合には、示談金が高くなる傾向にあります。同じ立場の同僚からセクハラされるよりも、上司や会社役員からセクハラされる方が、被害者は強い恐怖を感じるとの判断からです。
 一般的に、自分よりも強い立場の人に対しては「NO」を言いづらいですし、拒否した場合にパワハラや配置転換など社内で不利益を受けるリスクもあるからです。

 また、セクハラのが行われた期間や頻度も考慮されます。
・やめてほしいと何度も伝えたのに聞き入れてくれなかった
・長期間にわたって何度も被害に遭った
 などのケースです。ただしセクハラの期間を立証するのが難しいという問題はありますので注意してください。

【会社がセクハラ行為を認識していたか】
 勤務先の会社がセクハラを認識していたにも関わらず、適切な対応・処分をせずに放置しているということもあります。その場合は、会社に対しても使用者責任を追及できる可能性があります。

【弁護士にアドバイスをもらう】
 なるべく被害に見合った示談金を受け取れるよう、弁護士に相談するのも有効です。セクハラ問題の実務経験が豊富な弁護士であれば、これまでの経験から示談金を多く回収するコツを熟知しているため具体的なアドバイスをくれます。

【セクハラの示談金を請求する手順】
1.証拠の用意
 今手元に無いなら用意しましょう。セクハラの事実を証明する証拠があると、示談交渉や訴訟で有利になる可能性があります。
・音声録音データ
・メッセージのやり取り(メール、SNS等)
・被害を書き綴った日記やメモ
・撮影画像・動画データ
・同僚の証言
等、なるべく沢山集めるようにしましょう。

2.加害者に内容証明郵便を送る
 セクハラの証拠を集めたら、セクハラの事実と示談金の請求について記載した内容証明郵便を送ります。内容証明郵便とは、「いつ誰が誰に対して、どんな内容の文書を送ったのか」を郵便局が証明してくれるものです。
 内容証明郵便を郵送すると、相手は「そんな文書受け取っていないし、読んでいない」と言い逃れができなくなります。そのため、裁判外交渉で弁護士によく利用されています。

3.相手が内容証明郵便に応じた場合には、そのまま示談交渉をします。
 示談交渉は自力でもできますが、なるべく弁護士に依頼することをお勧めします。弁護士は交渉を有利に進めるテクニックや法律知識を有しているからです。

【訴訟】
 相手が内容証明郵便に応じない場合には、残念ながら示談交渉を進めることができません。そのまま訴訟の準備に移行する準備をすることになるかもしれませんが、内容証明郵便を送ったという事実は証拠となります。
 途中まで自力で示談交渉を進めて、難航してから弁護士にバトンタッチする方もいますが、最初から弁護士に依頼した方がスピーディーに解決する可能性があります。
 有利になる証拠の収集についてもアドバイスを貰えますし、交渉に慣れています。

【まとめ】
 セクハラは、内容の深刻さや加害者の立場によって様々なパターンに分類されます。実際にどれぐらいの示談金がもらえるのか気になった場合は、弁護士に相談することをお勧めします。
 最近では、無料法律相談を受け付けている弁護士も増えています。弁護士に相談する際は、あらかじめ内容を紙にまとめてから時系列に沿って説明すると、理解してもらいやすくなります。